電源ユニットの選び方は、長いあいだ「GPUの推奨W数を見て、少し余裕を足す」で済んでいました。
ところがRTX 50世代になって、この方法だけでは足りない場面が出てきました。平均の消費電力は足りているのに、1ミリ秒に満たない一瞬の跳ね上がりで保護回路が働き、PCが落ちるというケースです。
この記事では、まずNVIDIA公式の推奨容量を確認し、そのうえで「推奨どおりに買っても落ちる」のはなぜかを数値で説明します。あわせて、ATX 3.1という表記が何を保証していて何を保証していないのかも整理します。
先に結論
- 容量はNVIDIA公式の推奨を起点にしてください
- RTX 5060なら550W、5070なら650W、5080なら850W、5090なら1000Wです。詳しくは次の節にまとめます
- RTX 5090だけは推奨容量を削らないでください
- 瞬間的な跳ね上がりが実測で901Wに達します。850Wの電源では保護回路が働く可能性があります
- 認証はGoldを基準にしてよいです
- 電気代の差は年1,400円ほどで、選ぶ理由は効率よりも品質の傾向にあります
- 「ATX 3.1」という表記だけで判断しないでください
- 3.0との差は主にコネクタと測定方法で、一部の要件はむしろ緩くなっています
GPU別の推奨電源容量
まずNVIDIAが公表している推奨容量です。数値はシステム全体に対するもので、GPU単体の消費電力ではありません。
| GPU | 推奨電源容量 | 備考 |
|---|---|---|
| RTX 5060 | 550W | エントリー。8ピン補助電源で足ります |
| RTX 5060 Ti | 600W | 20万円台の本命クラス |
| RTX 5070 | 650W | WQHDの基準 |
| RTX 5070 Ti | 750W | 4Kも視野に入る帯 |
| RTX 5080 | 850W | この帯から余裕を見たいところです |
| RTX 5090 | 1000W | 削らないでください(後述) |
補足が要ります。これらの数値は、CPUにRyzen 9 9950Xを組み合わせた構成を前提に算出されています。つまりミドルクラスのCPUを使うなら、表の数字にはもう少し余裕があるということです。Ryzen 7やCore Ultra 5の構成で、この推奨を大きく上回る必要はありません。
逆に言えば、CPUを盛るほど余裕は減ります。Ryzen 7 9800X3DやCore Ultra 9を組み合わせる場合は、表の数値を下限として考えてください。CPUの消費電力の傾向はゲーミングPCのCPUの選び方で扱っています。
推奨どおりに買っても落ちることがあります
ここが2026年の電源選びでいちばん重要な部分です。
GPUの消費電力には、カタログに載る「定格」と、ごく短時間だけ発生する「瞬間的な跳ね上がり」の2種類があります。後者はトランジェント、あるいはパワーエクスカーションと呼ばれます。
RTX 5090で実測された数値がこちらです。
- 定格(TGP)は575W
- カタログに載っている数字です。ゲーム中の平均的な消費電力はこの前後に収まります
- 実測されたピークは901W
- TechPowerUpとIgor's Labの計測で、1ミリ秒に満たない時間だけ901Wまで跳ね上がることが確認されています。定格の1.5倍以上です
- 平均では見えません
- モニタリングソフトの表示は平均値なので、この跳ね上がりは映りません。「消費電力に余裕があるのに落ちる」という現象の正体がこれです
- 落ちる理由は容量不足ではなく保護回路です
- 電源は過電流を検知すると自分を守るために出力を止めます。瞬間的な要求に追随できないと、この保護が働いてPCが落ちます
つまりRTX 5090で850Wの電源を使うと、平均では足りていても、この一瞬に耐えられず落ちる可能性があります。推奨の1000Wという数字は、この跳ね上がりを見込んだものだと考えてください。
なお「落ち方」でも電源側かどうかを切り分けられます。停止コードが表示されて再起動するならWindowsが異常を検知して止めた状態で、原因はドライバやメモリ側に寄ります。何も表示されず一瞬で落ちるなら、OSが検知する前に電源が切れています。判定の手順はゲーム中にブルースクリーンが出る原因にまとめました。
なお他のGPUでも同じ現象は起きますが、絶対値が小さいぶん余裕で吸収できることがほとんどです。神経質になる必要があるのはRTX 5090で、それ以下は推奨容量に少し足す程度で足ります。
配線側の余裕も関係します。1本のケーブルに負荷を集中させると、この瞬間的な要求に対して不利になります。詳しくはGPU補助電源は分岐ケーブル1本で大丈夫?にまとめました。
ATX 3.xが保証しているのは何か
前節の跳ね上がりに対応するために作られたのが、ATX 3.0以降の規格です。
- 定格の200%を100マイクロ秒
- ATX 3.0とATX 3.1に共通する要件です。1000Wの電源なら、100マイクロ秒のあいだ2000Wまでの要求に耐えることが求められます
- ATX 2.xにはこの規定がありません
- 古い規格の電源が悪いわけではありませんが、瞬間的な跳ね上がりへの耐性が規格として保証されていない、という違いがあります
- だからRTX 5090ではATX 3.x対応が推奨されます
- 901Wという実測値は、1000WのATX 3.x電源にとっては想定内の範囲です
- ただし古い電源が必ず落ちるわけではありません
- 品質の高いATX 2.x電源なら耐えることもあります。規格で保証されていないだけで、実力は製品によります
ATX 3.1はATX 3.0の上位互換ではありません
ここは誤解されやすいので、はっきり書いておきます。
数字が大きいほうが上位に見えますが、ATX 3.1で緩くなった要件があります。
- ホールドアップ時間は17ミリ秒から12ミリ秒に短縮されました
- 停電など入力が途切れたときに、電源が出力を維持できる時間の要件です。ATX 3.0は17ミリ秒以上、ATX 3.1は12ミリ秒以上と、要件そのものが緩和されています
- トランジェントの要件は変わっていません
- 200%を100マイクロ秒という条件は3.0と3.1で共通です。ここが強化されたわけではありません
- 実質的な違いはコネクタと測定方法です
- 12V-2x6コネクタの正式採用と、効率テストの調整が主な内容になります
- つまり3.1と書いてあるだけでは判断できません
- ATX 3.0の上位モデルのほうが、3.1の廉価モデルより中身が良いことは普通にあります
ホールドアップ時間は、UPSを併用するときにも関係します。瞬間的な電圧低下をどこまで自力で吸収できるかという指標なので、短いほうが不利です。停電対策についてはゲーミングPCにUPSは必要?で扱っています。
12V-2x6コネクタは必須ではありません
もうひとつ、表記だけで判断しないほうがよい部分です。
- 規格上は450W以上で「推奨」の扱いです
- 必須要件ではありません。GPU側が8ピンの補助電源で足りるなら、このコネクタがなくても困りません
- 12VHPWRの改良版が12V-2x6です
- 旧来の12VHPWRは、差し込みが浅い状態でも通電してしまい、そこに電流が集中して溶けるトラブルが報告されていました
- 12V-2x6は半挿しで通電しない設計です
- 端子の形状を変えることで、しっかり刺さっていないときは通電しないようになっています。差すのは電源側とGPU側の両方です
- 重要なのは規格名より、必要なコネクタが揃っているか
- 目当てのGPUが何ピンを何本要求するのかを先に確認し、それが変換なしで届く電源を選んでください
80 PLUSの数字は23℃で測られています
認証まわりにも、知っておくと見方が変わる事実があります。
- 80 PLUSの測定は23℃です
- 実際のPCケース内部はもっと高温になります。表示されている効率は、現実より条件の良い環境で測った数字だということです
- Cybeneticsは30〜32℃で測ります
- 近年広がっている別系統の認証です。実際の動作環境に近い温度で測定されます
- 測定点の数も違います
- 80 PLUSが負荷20%・50%・100%の3点なのに対し、CybeneticsのETAは10%・20%・50%・100%の4点。低負荷時の効率まで見えます
- LAMBDAは騒音の等級です
- Cybeneticsには動作音をデシベルで測って7段階に分ける認証もあります。静音を重視するならこちらが参考になります
業界の動きも変わってきています。CORSAIRは2024年8月に80 PLUS認証から撤退してCybeneticsに一本化し、Seasonic・MSI・ASUS・Super Flowerといったメーカーも取得を進めています。
とはいえ、店頭やECサイトの表記はまだ80 PLUSが主流です。Goldを基準にしつつ、Cybeneticsの表記があればそちらも確認するという使い方が現実的だと思います。
なお電気代の差はそれほど大きくありません。BronzeとGoldの差は年1,400円ほどで、容量そのものは電気代に影響しません(詳しくはゲーミングPCの電気代)。認証を上げる理由は電気代の節約ではなく、上位グレードほど内部の部品構成が良い傾向にあるという点にあります。
モジュラー方式とサイズ
- フルプラグイン(フルモジュラー)
- 使うケーブルだけ付けられるので、ケース内がすっきりします。エアフローや見た目を重視するならこちらです
- セミプラグイン・直出し
- 主要ケーブルが固定式です。価格は抑えられますが、余ったケーブルの置き場所に困ることがあります。まとめ方はケーブルマネジメントの選び方で扱っています
- ATXとSFXは別規格です
- 一般的なケースはATX電源用です。小型PCを組むならSFXなど、ケース側の対応を必ず確認してください
- 奥行きも確認してください
- 同じATX規格でも奥行きは140mmから180mm程度まで幅があります。ケースの電源スペースとケーブルの取り回しに影響します
ケース側の寸法の見方はPCケースの選び方にまとめています。
メーカーと保証
電源は数年から10年単位で使い続けるパーツです。故障したときに他のパーツを巻き込む可能性がある位置にあるので、ここは価格だけで決めないほうがよい部分です。万が一、電源ユニットの不調で電源ボタンを押しても反応しなくなった場合の切り分け手順は電源が入らない・起動しない時の対処法にまとめています。
- 保証年数を価格と一緒に見てください
- 同じGoldでもメーカーによって6年・7年・10年と差があります。年数の長さは、メーカー自身が想定している寿命の表明でもあります
- 実績のあるメーカーを選んでください
- 極端に安価で名前を聞かない製品は、保護回路の実装に不安が残ります
- コンデンサの仕様も判断材料になります
- 日本製105℃コンデンサといった表記がある製品は、熱に対する余裕を確保している目安になります
実際の製品で見る候補
電源を単体で買うのは、自作するか、既存PCの電源を交換・容量アップする場合です。ここまでの基準を実際の製品に当てはめると、次のように分かれます。
750W/80PLUS GOLD/ATX 3.1・PCIe 5.1対応/フルモジュラー/7年保証
記事の目安でいうRTX 5060からRTX 5070 Tiクラスの中心にあたる1台です。ATX 3.1に対応しているので、新コネクタを使うGPUでも変換アダプタを噛ませずに済みます。フルモジュラーなので使わないケーブルを外してケース内をすっきりさせられます。
Seasonic FOCUS GX-1000 ATX3 (V4)
1000W/80PLUS GOLD/ATX 3.1・PCIe 5.1/12V-2x6ネイティブケーブル/日本製105℃コンデンサ/10年保証
RTX 5090の推奨容量にあたる1000Wです。前述のとおり5090は1ミリ秒未満で901Wまで跳ね上がるため、ここを削るのはおすすめしません。12V-2x6が変換ではなくネイティブのケーブルで用意されているので、コネクタまわりの取り回しに無理が出ません。保証10年は今回の4製品で最長です。奥行きは140mmあるので、ケースの電源スペースは先に測ってください。
650W/80PLUS BRONZE/セミファンレス/135mm デュアルボールベアリングファン/6年保証
価格を抑えたい構成向けです。ブロンズでも保証は6年あり、各種保護回路も備えています。ただしATX 3.x対応をうたっていないため、12V-2x6の新コネクタを必要とするGPUには向きません。RTX 5060やRTX 5060 Tiのように、8ピンの補助電源で足りる範囲で使ってください。
Cooler Master V SFX Gold 750 ATX3.1
750W/80PLUS GOLD/ATX 3.1/SFX規格/型番 MPY-7501-SFHAGV-3EJP
小型ケースを組む場合の選択肢です。SFXは一般的なATX電源より小さい規格で、対応するケースが決まっています。ATX電源しか入らないケースには物理的に付きませんし、その逆もあります。ケース側の対応規格を必ず先に確認してください。

RECOMMENDED
MSI MAG A750GL PCIE5(750W・80PLUS GOLD・ATX 3.1)
RTX 5060〜5070 Tiクラスならここが基準。RTX 5080なら850W、RTX 5090は1000Wまで上げてください
※価格・在庫は変動します。リンク先で最新情報をご確認ください。
よくある失敗
- 平均消費電力だけで容量を決める
- モニタリングソフトの数値は平均です。瞬間的な跳ね上がりは表示されないので、その数字を根拠に容量を削ると落ちる原因になります
- RTX 5090に850Wを合わせる
- 実測901Wという跳ね上がりに対して余裕がありません。ここは推奨どおり1000Wを確保してください
- ATX 3.1という表記だけで安心する
- ホールドアップ時間の要件は3.0より緩くなっています。規格名ではなく、必要なコネクタと保証年数、メーカーで判断してください
- 変換アダプタで新コネクタをまかなう
- できなくはありませんが、接点が増えるぶん不利です。GPUが要求するコネクタが直接生えている電源を選ぶほうが確実です
- ケースのサイズと奥行きを測らない
- ATXとSFXは互換性がありません。同じATXでも奥行きが合わずケーブルが詰まることがあります
よくある質問
Q.電源容量は何Wを選べばいいですか?
A.NVIDIA公式の推奨は、RTX 5060が550W、5060 Tiが600W、5070が650W、5070 Tiが750W、5080が850W、5090が1000Wです。これらはCPUにRyzen 9 9950Xを組み合わせた前提の数値なので、ミドルクラスのCPUならもう少し余裕があります。逆に9800X3DやCore Ultra 9を組むなら、この数値を下限と考えてください。
Q.容量に余裕があるのにPCが落ちるのはなぜですか?
A.瞬間的な消費電力の跳ね上がりが原因の可能性があります。RTX 5090はカタログ上の定格が575Wですが、1ミリ秒に満たない時間だけ901Wまで跳ね上がることが実測されています。モニタリングソフトが表示するのは平均値なのでこの跳ね上がりは映らず、電源側の保護回路が働いて出力を止めるという形で症状が出ます。
Q.ATX 3.1とATX 3.0はどちらが良いですか?
A.一概には言えません。トランジェント耐性の要件(定格の200%を100マイクロ秒)は両者で同じで、ATX 3.1ではホールドアップ時間の要件が17ミリ秒から12ミリ秒に緩和されています。ATX 3.1は3.0の上位互換ではありません。実質的な違いは12V-2x6コネクタの正式採用と効率テストの調整なので、規格名ではなく製品ごとの中身で判断してください。
Q.12V-2x6コネクタは必須ですか?
A.必須ではありません。規格上は450W以上で推奨という扱いです。GPUが8ピンの補助電源で足りるなら、このコネクタがなくても問題ありません。重要なのは規格名より、目当てのGPUが要求するコネクタが変換なしで届くかどうかです。
Q.12VHPWRと12V-2x6の違いは何ですか?
A.12V-2x6は12VHPWRの改良版です。旧来の12VHPWRは差し込みが浅い状態でも通電してしまい、接触面積が足りないまま電流が集中して溶けるトラブルが報告されていました。12V-2x6は端子の形状を変えることで、しっかり挿さっていない状態では通電しないように設計されています。
Q.80 PLUSのグレードはどれを選べばいいですか?
A.Goldを基準にすれば十分です。ただし80 PLUSの効率は23℃という、実際のPC内部より条件の良い環境で測定された数字である点は知っておいてください。BronzeとGoldの電気代の差は年1,400円ほどなので、認証を上げる理由は電気代よりも、上位グレードほど内部の部品構成が良い傾向にあるという点にあります。
Q.Cybenetics認証とは何ですか?
A.80 PLUSとは別系統の電源認証です。効率をはかるETAは30〜32℃という実際の動作環境に近い温度で、負荷10%・20%・50%・100%の4点を測定します(80 PLUSは23℃・3点)。動作音をデシベルで7段階に分けるLAMBDAという認証もあります。CORSAIRは2024年8月に80 PLUSから撤退してCybeneticsに一本化しており、他社も取得を進めています。
Q.BTOなら電源は気にしなくていいですか?
A.多くの場合は構成に見合った電源が選ばれていますが、確認する価値はあります。特にRTX 5090搭載モデルでは容量とATX 3.x対応を、将来GPUを載せ替えるつもりなら容量の余裕を見てください。BTOのスペック表では容量と認証しか書かれていないことも多いので、型番まで開示している店なら中身まで確認できます。
まとめ・次に読みたい記事
電源選びの基本は変わっていません。GPUに合わせて容量を決め、認証はGoldを基準にし、実績のあるメーカーの長期保証品を選ぶ。これで多くの構成は問題ありません。
変わったのは、カタログの消費電力と実際の要求が一致しなくなったという点です。RTX 5090は定格575Wに対して1ミリ秒未満で901Wまで跳ね上がります。平均値しか見ていないと、この差に気づけません。推奨1000Wという数字は、この跳ね上がりを織り込んだものだと理解しておいてください。
そしてもうひとつ。ATX 3.1という表記は、3.0より優れていることを意味しません。トランジェント耐性の要件は同じで、ホールドアップ時間はむしろ緩和されています。12V-2x6コネクタも450W以上で推奨という扱いで、必須ではありません。
規格名は目印にはなりますが、判断材料としては粗すぎます。目当てのGPUが要求するコネクタが直接生えていること、保証年数が長いこと、メーカーに実績があること。この3点で選べば、規格の表記に振り回されずに済みます。






